越後瞽女日記《絵日記 瞽女歌》

個人蔵

  • 【内容】
  • 又、それがとても綺麗でした。若い人は段物とか口説なんか、わからないでしょう。だからやい〱いって花笠音頭とか、はやり歌をうたわせて、よろこんだものです。」 この店のすぐ前の狭い街道は、時折り自動車が砂ほこりを残して通り過ぎる、その度に店のガラス戸がビリ〱と音立てる。自動車がこんなに通っては、もう瞽女さんも歩けないだろうと思いながら私は話しに聞き入っていた。 「道を歩く時は、手の指を三本、前の人(手引き)の背につけて「こゝの坂が大きいとか、溝があるよ」後の人に伝えて上手に歩いて来たものです。」 「雨の日は真っ黒いマントを着て三味線を大事にしながら、そんな時でも歩いて来ましたよ。門付も雨が降っている時は、急いでいるでしょう。だから簡単な歌でしたね。―覚えていますよ。「梅か桜か蓮華の花か、迎えござるか港のさあー」こんな歌でした。」 店の奥さんは少し節をつけて、その歌を聞かせてくれた。