越後瞽女日記《絵日記 東頸城の雪》

個人蔵

  • 【内容】
  • キクイさんは、みさおが何時もは元気で人一倍おしゃべりもし、歌もよくうたっていたのに、何故、今度の旅ではこんなにやつれ、別人のように、無口になったのか、理由がよくわからなかった。…信州から帰っても、みさおがぐったりして家にばかり閉じ籠っているのを心配して、彼女のもとに足しげく通った。 九月になって再び杉本家は、西頸城の旅に半月ほど出たが、それを終えて東本町の我が家に帰って来たキクイさんは或る日、丁度、高田別院のお祭の日であったが、夕方寺の参道の夜店の人ごみの中でぱったりみさおに逢った。 「あら…みさおさんかね…もう出て歩けるようになったの…」思わずキクイさんはそんな驚きの言葉を交した。 「おらぁー…もう良くなったがね…今日は楽しみにしていたお掛所のお祭りでしょう。だから出て来たの…月初めに東頸城に巡業するの…」 みさおは細々とした声でそう言った。キクイさんは思わず、みさおの手を握りしめたが、それはまるで…枯木のようで、あの温かい元気そうな…溌剌としたみさおとは夢にも思われなかった。 間もなく、十月になって、東頸城に草間家の巡回が行われた。それは十一月上旬まで一ヶ月の長い山旅である。 実は、この旅は…これを最後として草間家も、杉本家も、一年の巡回のすべてが終了するのであるが、そのころ、もう越後の国、上越の山岳地帯には早、初雪がちらついていた。